徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


水資源開発施設の費用負担の仕組と撤退ルール レジュメ

                                            弁護士 在 間 正 史

 1.徳山ダムの費用負担の明細

 2.水機構建設ダムの事業実施計画の作成と費用負担の同意(水資源機構法13条)

 3.事業実施計画の内容

 4.費用負担の仕組(特定施設の場合)

 5.撤退時の費用負担(水機構法施行令30条)の基本

 6.撤退ルールの考察


1.徳山ダムの費用負担の明細

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2.水機構建設ダムの事業実施計画の作成と費用負担の同意(水資源機構法13条)

1項(事業実施計画の作成)
 独立行政法人水資源機構(水機構)が建設する水資源開発施設は、事業実施計画を作成し、関係都道府県知事に協議するとともに、主務大臣(徳山ダムは国土交通大臣)の認可を受けなければならない。これを変更するときも同様。(1項)
3項(利水者の費用負担の同意)
 水機構は、事業実施計画の作成または変更しようとするときは、あらかじめ、流水を水道若しくは工業用水道の用に供しようとする者(事業からの撤退をする者を含む)の建設費等の費用(25条1項)の負担について同意を得なければならない。
6項(事業の廃止)
 1項の関係都道府県知事への協議と大臣認可、3項の利水者(撤退者を含む)の廃止時の費用(25条2項)の負担についての同意と同じ手続をとる。

 水道や工業用水道の利水者が水資源開発施設の費用負担をするのは、この費用負担の同意があるからである。この費用負担の同意は、事業実施計画の作成と変更においてあらかじめ必要であり、それがなければ、事業実施計画の作成や変更はできない。

3.事業実施計画の内容

 貯水容量、用途別の配分容量、新規利水の地域・用途別の開発水量
 事業費
 流水を水道や工業用水道の用に供する者(利水者)の費用負担割合と額
        事業費×費用負担割合=当該利水者の費用負担額

4.費用負担の仕組(特定施設の場合)

特定施設(水機構法2条4項)
 洪水防御(高潮を含む)の機能、流水の正常な機能の維持と増進を目的に含む施設
治水関係用途(水機構法21条、同法施行令19条)
 洪水調節、高潮防御、流水の正常な機能の維持と増進
特定施設(多目的ダム)の費用負担者(用途)
  治水関係用途、水道、工業用水道、特定かんがい、発電
費用負担割合の決定(水機構法施行令18条)
 複数目的の共同施設では、各目的毎の費用負担割合の決定方法が必要。
 分離費用身替わり建設費妥当支出法(特定多目的ダム施行令第1条の2〜第6条)
   妥当投資額、身替わり建設費、分離費用、専用施設費用
 各用途が投資可能額の割合に応じて費用を負担する
 投資可能額:分離費用+投資可能限度額の割合額
 投資可能限度額:妥当投資額か身替わり建設費のいずれか少ない額
※徳山ダムの場合
 水道、工業用水道:身替わり建設費(総理府令→関係省庁申合せ)
 洪水調節、流水正常機能維持:身替わり建設費
 発電:ゼロ(分離費用のみ)、分離費用>投資可能限度額ゆえ(関係省庁申合せ)

費用負担額(負担割合)=
 分離費用+
  (共同施設費用−分離費用合計)× (妥当投資額か身替建設費の少−分離費用)
                      Σ (妥当投資額か身替建設費の少−分離費用)

治水関係用途の負担と支払
 毎年度、国が70%、関係都道府県が30%負担して支払
利水者の費用負担と支払
 水道:毎年度、国庫補助1/3支払
    2/3は水機構が借入れ、完成後、元利金を借り換えて、23年払いで償還
    料金収入で償還(地方公営企業の独立採算制)
    1/3の一般会計繰入(出資)が許容(交付税措置)
 工業用水道:毎年度、国庫補助30%支払、残り70%の30%を支払
    残り49%は水道と同じ方法で償還
    料金収入で償還(地方公営企業の独立採算制)
    一般会計からの繰入は、財政再建以外は許容外

5.撤退時の費用負担(水機構法施行令30条)の基本

特定施設である共同施設(ダム、河口堰等)の事業の縮小の場合(2項)
 @不要支出額とA縮小後の治水用途の費用負担額と投資可能限度額との差額を負担
@不要支出額(水機構法施行令18条2項)
 当該新築又は改築に要する費用の額(A)と、当該事業の縮小後の水資源開発施設が有する効用と同等の効用を有する水資源開発施設の新築又は改築に要する推定の費用の額(B)との差額をいう。(A)−(B)
A投資可能限度額(水機構法施行令18条3項)
 各用途について特ダム法施行令5条により算出した額(身替わり建設費)又は同令6条により算出した額(妥当投資額)のうちいずれか少ない額から、当該用途の専用施設の費用を控除した額

6.撤退ルールの考察

1) 手続規定がなく実体規定だけである
 「撤退ルール」といいながら、水機構法施行令には、利水者が撤退する手続規定がなく、撤退時の費用負担規定が中心である。
 「撤退ルール」とは撤退の手続法と実体法を定めるべきものであり、水機構法施行令には手続法がない。利水者は権利として撤退請求できない。水機構法令の規定からは、撤退ルールを動かすかどうかは、水機構の自由、運用によるようになっている。利水者の撤退は、フルプランの事業目的と新規利水容量の変更をもたらし、フルプランの変更も必要となる。フルプランの変更時しか撤退できない可能性もある。
 なお、国土交通省が建設管理する特定多目的ダムの場合は、特定多目的ダム法12条にダム使用権設定予定者のダム使用権設定申請の取下の規定があり、利水者が撤退を請求(取下申請)できる規定がある。

2) 利水者が事業から撤退しても、それだけではダムの規模は変わらない
 利水者が撤退すると、その利水者のための有効貯水容量は不要になる。したがって、その分、必要なダムの規模は縮小するはずである。
 しかし、水機構法施行令18条2項によれば、(A)は当該新築に要する費用、(B)は縮小後の効用と同効用の施設の新築推定費用となっており、利水者が撤退しても、その分ダムの規模が、当然に縮小されるのではなく、ダムの規模は元のままである。
 そうすると、治水用途は容量が増えないし、投資可能限度額も変わらないので、撤退者の負担していた建設費は治水用途の負担にもならない。
 したがって、撤退利水者は、その建設費を全て負担して撤退することを意味する。
 利息に対する費用負担はなくなる。
 結局、撤退利水者分の容量は、有効貯水容量から除かれる。それは、無効貯水容量になることである。
 利水者の撤退と同時にダムの規模の縮小変更を行えば、(A)の当該新築に要する費用はこの費用になる。ダムの規模を縮小することが可能な早い時期(ダム本体工事着手前、特に計画段階)では、ダムの規模を縮小したり、計画を廃止することができる。この場合は、(A)はこれまで支出した額と縮小後必要となる新築費用である。縮小後必要となる新築費用は(B)とほぼ同じであるので、(A)から(B)を差し引いた不要支出額はこれまで支出した額となる。

3) 増額の場合どうなるのか
 (A)の新築に要する費用は、事業費が明らかになったのであるから、そこで予定されているのは増額後の費用であろう。
 しかし、利水者が費用負担しているのは、同意している事業実施計画に対してである。増額がある場合でも、増額したものについての費用負担の同意なくして、撤退する者を含む利水者に対してこれを負担させることはできない。撤退する利水者にとって、増額がある場合でも、費用負担の同意をしている増額前の事業実施計画の事業費が(A)の「新築に要する費用」である。
 一方、(B)の当該事業の縮小後の水資源開発施設が有する効用と同等の効用を有する施設の新築推定費用は、精確な事業費が明らかとなった以上、増額後の積算に基づく推定額である。
 したがって、不要支出額(A)−(B)は、
   増額前の新築費用−増額後の縮小仮定費用
となる。
 計算上は負担がなくなる場合がある。例えば、徳山ダムで2540億円から3550億円に1010億円した増額とき、増額後の3550億円よりも、1010億円以上、縮小後のものと同等の効用を有する施設の新築推定費用額が多くないと、負担がなくなる計算となる。
 これを解決する方法は、増額と撤退を同じ事業実施計画でして、費用負担の同意をとることである。撤退も事業実施計画の変更が必要である。おそらく、政令立案者はこれを予定していると思われる。
 しかし、この方法でも、増額についての撤退利水者の費用負担の同意が前提となるから、「増額した費用負担に同意しない。撤退する」といって費用負担の同意をしない利水者がいると、増額と撤退同時の事業実施計画の変更はできない。まず撤退の事業実施計画の変更をして(この場合の不要支出額は増額前のもので計算する)、その後に、事業費増額の事業実施計画の変更をする以外にない。この場合は、増額事業費のうちの撤退利水者が負担するはずであった分の財源がなくなる(これを解決するため、利水費用負担割合を変えないで、撤退しない利水者に撤退利水者が負担するはずであった分の負担をさせるには、当然、この費用負担増についての同意が必要である)。
 事業費増額の事業実施計画の変更において、利水者が「増額の費用負担は同意しない。撤退する」ということによって、撤退請求権を、それも安い費用負担で得たのと同じになる。利水者は、利水事業としての自己判断として撤退ができる。

4) 利水者の費用負担の同意
 問題の原因は、水機構法13条2項(公団法20条2項)の利水者の費用負担の同意である。
 利水者が費用負担義務を負うのは、自己が同意した費用負担の範囲内である。また、利水者は増額のときは、同意を義務づけられていないので、自己の判断で同意をするか否かを決められる。
 もし、事業費が増額される場合、ある利水者が、事業費増額の費用負担に同意せず、撤退すると、増額分のその者が負担するはずであった分を負担をする者がいなくなる。これは、事業費の財源がなくなるという結構大きな問題で、事業の実施に財政的な根拠がなくなることである。

2003.09.05


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